ノルウェーをお手本に

ノルウェーの国土は日本とほぼ同じ広さで平野が少なく、フィヨルド沿岸の町を道路ではなく海路(沿岸急行船:南部のベルゲンから北部のキルケネスまで往復11泊12日で航行 、年間の利用者は観光客を含め40万人を越える)で結ばれています。

人口は北海道(面積88,450m3、人口550万人弱)とほぼ同じ程度の約500万人強です。

ノルウェーはバイキングとして有名な海洋国で、アイスランドに入植しました(870年)。アイスランド語とノルウェー語は似ているようで両国の人は会話に困らないようです。

 約1000年前、バイキングは北米にも到達していたと言われます。北極探検、南極探検で有名なアムンゼン(1872-1928)もノルウェー出身です。 首都オスロ郊外には、発掘されたバイキング船を展示する博物館があります。

近年、ノルウェーと英国の間にある北海で油田が発見され、1970年代から北海油田から原油・ガスを輸送するために海洋技術が急速に進歩しました。 将来、油田が枯渇することを前提に、北海油田収入を次世代に活用することを考えて新しい産業を育成しています。

人口、埋蔵エネルギー源、産業構造、規制、魚種数など条件は異なりますが、日本の水産業はノルウェーに見習うべき点がいくつかあるでしょう。

ノルウェーと日本の比較

比較項目 ノルウェー  日本
国土面積 385千km3 378千m3
人口 約505万人(2013年1月) 1億2712万人(2014年3月)
平均寿命(女/男) 2011年 83歳/79歳 87歳/81歳
ひとり当たりGDP 2012年 99千ドル 46千ドル
消費税 基本的に25%、食料品15%等 8%(2014年4月)
エネルギー源 自給(北海油田、水力)、輸出 ほとんどを輸入
水産物の国内需要 少ない 国産+輸入
漁獲物 少品種多量生産 多品種少量生産
 漁獲量(天然魚) 229万トン(2011年)

数量減、所得増傾向

479万トン(2012年)
 漁獲割当 漁船毎 一部の魚種別で総漁獲量
 海面養殖量 110万トン(2011年)

サーモンとトラウト

109万トン(2012年)
ブリ類、マダイ、ギンザケ、
マグロ等
 漁業者数 1.8万人(2002年) 17.8万人(2011年)
 ひとり当たり漁獲量+養殖量 180t強 33t
漁獲物の輸出志向 ほとんどを輸出 一部を輸出
水産業の地位 北海油田に次ぐ人気産業 衰退産業と思われている

海外では養殖量が増えているが、日本は減少している

 水産業への補助金 ほとんどなし 多額
総合商社 なし、駐日大使館が果たしている あり

北海油田

1960年代にノルウェー沖で北海油田が発見され、その莫大な収入を子孫で活用するための策を検討し、そのひとつとして「養殖サーモンを輸出産業へ」という国家戦略を立案して実行 して、絶大な成果(生産量は100万トンを超え、ほとんどを世界に輸出している)を挙げました。結果として水産業は最も人気があり収入の高い職業のひとつになっています。

日本ならば鮭(養殖サーモン)が確実に売れるはず!!

1974年に釧路等日本の水産業を視察して、日本の旺盛な水産物需要を認識したリストー漁業大臣(在任期間1981年-1985年)が、北洋サケマス漁が国連海洋法条約で漁獲制限 を受け、日本では鮭 マス需要はあるが供給不足になる と読み、養殖サーモンを世界に売るための長期計画(体制づくり)を作成し、対日輸出をめざして販売促進活動に大量の活動資金と人材(日本国内の司令塔としてノルウェー本国採用の日本人 、マーケティングの専門家)を投入しました。

対日輸出倍増計画(プロジェクト・ジャパン) →  綿密な計画を立案・実行して世界制覇へ

プロジェクト・ジャパン」の日本市場での成功から世界に拡がった水産物マーケティング成功例といわれています。 「プロジェクト・ジャパン」25周年を記念して2010年5月に沿岸急行船内でリストー元漁業大臣をはじめ関係者が集合してシンポジウムを開催しました(みなと新聞2010年7月21日付け)。

計画着手にあたり欧州での拡販失敗例を分析 し、取扱業者を少なくして意図を集中的に伝えました。

当時、日本のさけます市場 30~50万トン/年に対し、「3万トン/年輸入で 日本の水産物市場 はノルウェーサーモンの存在を認知するはず」と当面の目標を設定しました。

魚食普及を名目として日本の水産関係者を巻き込むフレンドシップ体制づくりを行いました。

輸送:空路(ルクセンブルグの著名な貨物航空会社他)で北部ノルウェーから小松空港へ直行、小松から陸路で築地へ輸送することで、釧路 から築地まで(当時は青函トンネルは未開通)よりも短い輸送時間を実現しました。

生食:餌 を管理することで養殖サーモンには寄生虫の心配がないことを消費者にアピールしました。その結果、マグロと並ぶ有力な寿司ネタに成長しました。

販売現場では、個々の企業が自由競争しながら、ノルウェーという傘に下で売り込みました。店舗に並んでいるノルウェーサーモンには企業名が記載されていません。

計画実行の司令塔はノルウェー水産物審議会です。日本市場の情報 (他魚種を含む水産物需要、日本の経済状況、販売状況等)を収集して本国へ 送り続けて産地の啓蒙を続けました。

日本市場へノルウェーサーモンの宣伝

生食:皇族・王族が帝国ホテルで開催されたレセプションで生のノルウェーサーモンを試食しました。その光景を女性週刊誌の写真で宣伝 したことで認知度を広めました。

日本国内の司令塔は、日本経済新聞(土曜夕刊)に「男の手料理」を執筆して宣伝に努めました。

一連のキャンペーンの前、フジテレビのキッコーマン提供の料理番組=くいしん坊!万歳 ノルウェー編(全18回) で清潔なノルウェーの海と豊富な魚種を主婦に宣伝しました。現地で取材する旅費を節約のためSASを活用しました。

まずは、高級感を消費者に植え付け高価格を維持するために、高級寿司店、フランス料理店で最初に高額な商品として取扱を開始しました。

世界の有名レストランでノルウェーサーモン調理法の提案を求めレシピを写真付きで出版(もちろん英語版)しました。 このことで、和食だけでなく洋食にも使えることを示しました。

女性に ノルウェーサーモンを迅速・広範に浸透させるため、料理教室に食材としてサーモン他を提供し、販売店で試食会 、週刊誌、女性月刊誌(多くの美容院に置かれている)の取材を受けました。

成功要因の分析

世界的な水産物マーケティング成功例、全てを真似できるわけではないですが、考え方は大いに参考になります。

最近、わが国の製造業、流通業でも人手不足が深刻になってきています。北海道ほどの人口であるノルウェーでは、人手をかけない自動化技術の開発に努めてきました。錦江湾のブリ類生産高であれば、ほんの数人が交代制で飼育し ているとも言われます。

①日本で生鮮鮭が売れるはず
 日本ではさけますが食卓へ、国連海洋法条約成立して公海で漁獲制限の動きをチャンスと捉える
 リーダシップ(漁業大臣)、1974年に水産調査団の一員として訪日
 明確な目標設定:3年で対日輸出額倍増

   (財務省貿易統計によると、 対ノルウェー輸出額に変化なく、輸入額が大幅に増大)
 充分な活動資金を確保(北海油田収入+生産物の3%)
 

②周到な準備でマーケティング活動
 司令塔の存在(マーケティングの教育を受け、ノルウェー本国で採用された日本人が担当)

 日本の水産関係団体を集めて魚食普及をテーマに活動

 個々の ノルウェー企業別活動ではなく、「清潔な海、ノルウェー産水産物」を旗印
 高級食材として認知度を高めた

 活動資金を業界が拠出

③産学官が一体となって養殖サーモンの 品質管理とコスト低減構造を構築
 大学、研究所、企業が一体となって技術開発(ワクチン、省力化、身の色、餌、人工種苗、・・・・・)

 品質基準に合格した製品のみを出荷

日本のJISに相当する品質基準(Norwegian Industry standard for Fish)には次のような項目の順守を政府が要求しています。

・製品の安全性と鮮度

・衛生

・温度管理

・薬品使用

・不良品の選別

・ラベル

・添加物

・HACCPに則った自主検査

 

 

 

 生産体制の充実、生産量を餌量で管理,、検査官による抜き打ち立ち入り検査
 →結果として、垂直統合型経営体に進展
 消費地のニーズを知り、産地に情報を還元するしくみ

参考文献

丹羽弘吉,2003.ノルウェー水産物の品質管理とマーケティング,養殖No.503、2003年8月、p22-25
丹羽弘吉,2003a.発展するノルウェー養殖業の経緯,養殖No.503、2003年8月、p14-18
佐野雅昭、2003,サケの世界市場-アグリビジネス化する養殖業,成山堂書店,pp259

丹羽弘吉,2007,活性化に成功したノルウェーの漁業制度と資源管理、AFCフォーラム 2007・10,p15-18
アクアネット2012年9月号,ノルウェーサーモンの海外市場開拓手法 「プロジェクトジャパン」の成功要因,pp24-28