養殖ブリ輸出増に向けた提言

輸出増で産地に期待される効果

生産者にとって輸出向けも生産することで生産規模増大によるコスト低減が期待できます。

他産業の例を参考に

1980年代、日本の水産業と半導体は世界一でした。いまや、かつての新興国の後塵を拝しています。半導体産業が衰退する過程でなにが欠けていたのでしょう。いくつかの衰退理由があるでしょう。なかでも、品質を高める点では優れていても

という視点が欠けていたのではないでしょうか。

単に、国内で売れなかった製品を輸出しようという姿勢で世界に売り込むことは難しいでしょう。入念に対象国のニーズを調査し、それに合致した仕様、価格の製品を準備することが輸出成功に結びつくでしょう。

海外家電が躍進(日本経済新聞 2014-4-10)

日米で好まれるブリの脂質は大きく異なります。日本人向けのブリを米国に輸出しても残念ながら評価されないでしょう。逆の同様です。また、要求される品質の幅も異なります。日本では○○ブリとして売られているブリで 、昨日購入したものと今日購入したものではその品質に差があるでしょう。そのようなブリでは米国に販売することは難しいでしょう。

2020年東京五輪はチャンス

1964年の東京五輪は秋(開会式は10月10日)に開催され、それが「体育の日」という祝日になっています。2020年には真夏に開催されます。旬の時期に冷凍した脂ののった冷凍ブリを来日する方々へ提供しましょう。

水産物輸出先候補のヒント

現状では、品質の高い刺身商材の輸出量はわずかです。今後、刺身商材などの付加価値の高い水産物の輸出が期待できる国は、

などが考えられます。

そのために業界全体で体系的に取組を

1980年代初頭、ノルウェーの養殖サーモンの生産量はわずかで養殖ブリの生産量のほうが多かったが、今では、養殖サーモンはノルウェー本国の養殖ブリ生産量は10倍を超えています。この他にノルウェー企業が他国に進出して生産している例もあります。

わが国のほとんどの業界と同様に養殖魚の業界も内部で無益な過当競争(A社が新しい販路を開拓すると、B社がそれより安い価格を提示して乗換えさせる等)を繰り返しています。競争する部分と協調する部分を切り分けて業界の存続をはかっていくべきです。1980年代からノルウェーが実施してきたこと の全てをお手本にしてよいか疑問もあります。しかし、そこにいくつかのヒントがあるでしょう。彼らは、司令塔のもと、産官学が一体となって養殖サーモンに産業化を進めてきました。

体制:司令塔のもと、関係する団体・企業群のベクトルを揃え、役割分担を決めます。

取組内容:①要求品質の製品をつくる技術と生産環境の整備、②輸出先のニーズにあわせ安定した供給体制の確立と③世界をめざしたマーケティング体制の整備

シナリオ:目標に向けた活動はひとつだけでなくいくつかあります。それぞれの時間軸と担当機関は異なります。司令塔がそれらを調整して効率的に進めていきます。

合理的な経営体の提案

養殖サーモン企業 が 垂直統合型経営体例:フェロー諸島のbakkafrost社) という形で進化し、生産規模の拡大、コスト低減、品質確保、産地の雇用確保等をめざしています。

養殖業のコストの2/3は餌代です。また、生簀内の養殖魚の品質を揃えることは至難でしょう。養殖業者だけで餌代コストの低減と販売先の品質要求に応えるには多くの困難があります。もし、養殖業者と加工業者が一体になれば困難のいくつかを解決するヒントがあるしょう。

そのような視点で垂直統合型経営体という構造が考えられました。これこそ、リストラ(restructuring、再構築、再編)です。垂直統合型経営体は 育種~産卵~孵化~種苗生産~養殖~加工~販売 までの一貫体制を段階的に進化していくことでしょう。

既に、ブリ養殖大企業ではこのような形態に移行している例もあります。しかし、多くの中小経営体はより合理的な経営体(複数企業の複合体または単一企業の発展形)をめざしていくことでしょう。

実現に向けた課題

垂直統合型経営体の実現に向けていくつかの課題があります。

・中小経営体の規模が大きくなったときに必要となる技術の開発(大型生簀から水揚げ作業の省力化、自動給餌機、水中カメラ、生簀群の監視システム、加工場で魚にストレスを与えない水揚げ法、加工工程の自動化、冷凍庫の節電技術、・・・・)

参考文献

湯之上隆(日本型モノづくりの敗北、文春新書、2013)