ブリ養殖経営

経営体数の減少

ブリ養殖を実施している経営体数は1970年代後半まで上昇し、その後経営悪化で退出する経営体が増えたことで経営体数は下降線をたどっています。全国のブリ養殖量は飽和状態のため、1経営体当たりの出荷額は増大しています。

その後、この種の統計はなくなり、5年毎に実施される「漁業センサス」で調査されています。主要3生産県のブリ類養殖経営体数(必ずしもブリ類専業とは限らない)は次のように (2013年←2008年←2003年)減少しています。

  経営体数 1経営体当たりの出荷量(t)
  2013年 2008年 2003年 2013年 2008年 2003年
鹿児島県 246 316 371 206 92 138
愛媛県 167  194 227 141 109 134
大分県 43  56 61 533 217 226

 

    

 

個人経営体の経営状況

ブリ養殖を経営している経営体は、個人経営体と企業経営体等があります。それぞれの経営状況について農林水産省が経営状況を調査して「漁業経営調査」として公表しています。平成24年漁業経営調査はこちらです。標本数は、2008年漁業センサス結果で調査対象となった経営体のうち、ぶり類養殖業の50分の1です(標本数は10)

平成24年漁業経営調査によると、売価がキロ600円強では個人経営体の経営は赤字体質であり、餌代の生産原価に占める割合は約2/3です。 養殖ブリはサーモンに劣ることのない日本固有の養殖魚です。いつまでも養殖ブリが食卓にのぼることができるようにブリ養殖経営体の持続できる方策が必要です。

比較項目

単位

四国

九州

養殖施設面積

m2

921

1,203

639

収穫量

kg

115,670

137,138

94,202

収入

千円

71,987

86,118

57,856

キロ当たり原価

/kg

680

696

658

キロ当たり売価

/kg

622

627

614

キロ当たり総利益

/kg

-58

-64

-43

餌代の原価割合

%

67

73

57

キロ当たり餌代

/kg

455

508

377

単位施設面積当たりの収穫

kg/m2

126

114

147

 

経営体の種類

ブリ養殖の経営体は、法人格からみて、個人経営体、企業経営体等に分けられます。

また、もじゃこから成魚出荷までの流れからそのどの部分を担当するかで経営体を分けられます。海域の水温、経営体力(養殖施設と餌代負担)から どの部分を担当するかが選択されます。

冬場の海水温が10℃を下回ることがなく、経営体力のある経営体はもじゃこを自身で導入して翌年末に成魚出荷を目標に飼育します。その間の餌代の負担がかかります。 餌代の負担に耐える体力のない経営体の場合には、中間魚の段階で別の養殖業者に販売して短期に資金を回収します。

A:もじゃこを他の専門業者から仕入れて成魚まで飼育します。翌年は、別の生簀に仕入れるので2式以上の養殖施設とします。

B:冬場の海水温の低い海域の業者は、越冬する前に他業者に中間魚として販売したり、暖かい海域に預けます。また、越冬する前に中間魚を買い入れる業者もいます。

C:もじゃこを仕入れてから1年程度飼育して、中間魚を販売する業者もいます。餌代の負担が少なく、施設を1年で回すことができ、設備投資と餌代の負担を軽減できます。1年目に半数を中間魚として販売し、残りを成魚まで飼育する業者もいます。

経営体は、餌(餌代価格、生餌の漁獲状況)、他業者の保有数、魚価(現状と予測)を見ながら、自身の利益が最大となるように養殖魚(中間魚または成魚)を販売していきます。重量も3キロから5キロと幅をもたせて周年出荷していきます。

餌会社は販売先の養殖業者の与信額に応じて、餌を販売します。販売代金の代わりに養殖魚を引き取り加工業者や消費地に販売するビジネスモデルもあります。

与信枠の小さな業者に対しては、餌会社は漁協に餌を販売することで餌代金を漁協から確実に回収する方法をとります。

経営改善の目標

平成24年漁業経営調査結果から、短期的には平成24年の魚価では少なくとも10%以上の変動費(餌代+種苗代)の削減が必要となります。長期的には、大きな構造改革が必要になるでしょう。その一案として、垂直統合型経営体への移行(育種~産卵~孵化~種苗生産~養殖~加工~販売 までの一貫体制)が考えられます。

養殖県での人口減少

わが国の人口は2008年をピークに減少傾向で、一部の都府県を除き各県とも減少しています。 人口減少は需要減退と共に産地の就労人口減少につながります。

ブリ養殖3県も人口が減少しています。3県とも県全体での減少率はほぼ同様で、減少の割合は年とともに増大しています。県庁所在地の人口は微増で、養殖の盛んな自治体の減少率は県全体の減少率よりも大きいです。

佐伯市では、養殖の盛んな地区の減少率は 市全体・旧佐伯市と比較してさらに大きく(2005年から2010年にかけての減少は、2000年から2005年にかけての減少と同率と仮定) 、年と共に減少率は大きくなっています。佐伯市の生産年齢人口 (15~64歳)と年少人口(15歳未満)も減少が続いています。

2014年5月9日付けの各紙では、日本創世会議が「人口減で多くの自治体の維持が難しくなる」と いう予測を報道しています。残念ながら、養殖の盛んな自治体もそのように推測できます。

昨今、わが国全体で多くの産業で人手不足が話題になっています。今後、ブリ養殖の盛んな地区の人口はさらに減少が予想され、人手不足が避けられないでしょう。そのような事態に備えて、ノルウェーのような 養殖作業の自動化・軽減技術の開発が必要になってきます。