米国の水産物市場
健康志向の米国人の水産物需要が増大しています。
米国では、日本語の「すりみ」「すし」「さしみ」「はまち」がそのまま通用する地区が増えています。 経営者が日系でないレストランでも「すし」「さしみ」をメニューに加えて売り物にしている店もあります。
水産物輸入額
米国は、年間に150億ドル以上の水産物を輸入しています。(FAO Global commodities production and trade(1976-2011)から)
米国の人口は日本の約2.5倍です。米国(2009年に9万トン)は日本(2009年に2万トン)と同様に大西洋サーモンを輸入しているように牛肉だけでなく水産物も食べています。レストランでは、生鮮よりも衛生面で取扱が容易で安全な冷凍品が好まれます。業界が 養殖、加工、販売段階で連携工夫して取り組めば、脂質豊富な養殖ブリの輸出拡大が見込めるでしょう。
賞味されている魚種
白身魚をはじめとして次のような魚食需要があります。
養殖サーモン
白身魚(養殖ストライプドバス、養殖キャットフィッシュ(ナマズ)、カッドフィッシュ、養殖ティラピア、スナッパー(フエダイ)、グルッパー(アラ)、ハリバット(オヒョウ)、ソードフィシュ(メカジキ)、フランダー(カレイ・ヒラメ)、etc)
甲殻類(エビ、カニ等) 二枚貝類(オイスター) 川魚(内陸部)
魚料理のメニューは少ない
宗派によって魚食習慣の違いがあります。
レストランは、フライ用食材以外は冷凍品を使い、生魚を使うことがあるがメニューが多くない。
家庭で水産物を1週間程度貯蔵します。
魚の調理法が限られています。
生鮮:ソテー、スチーム、トマトソース煮込み、バーベキュー
加工品:揚げる、茹でる、オーブンで焼く、スチーム(エビ)、バーベキュー
日本料理では魚を、生(さしみ)、煮る、焼く、揚げるの4通りで調理します。これとは別に、現地の調理人は魚を使った新しいメニューを考案しています。その一例が、巻物(ロール)です。高価な水産物の端材を活用してコストを下げ て少し所得の低い人たちを顧客にするという発想のなかで生まれた料理です。
水産物の店頭販売例
水産物レストラン
鮮魚を扱うレストラン例
西海岸に鮮魚を目玉にした fishmarket というレストランチェーンがあります。 経営者は日系人ではないでしょう。ここでは、鮮魚の店頭販売も行っています。
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レストランの全景
店内の顧客は必ずしも日系人だけではありません。西欧系、中南米系など多様です。
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店頭で小売販売している鮮魚。
現地で漁獲された天然魚も販売されています。
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ハマチとマグロの刺身+カリフォルニアロール を注文しました。
ハマチの刺身は、ひと切れずつきちんと切れていませんでした。
きっと従業員に日系のひとはいないのでしょう。
日本人経営の寿司店
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日本人経営の寿司店で、冷凍ハマチ(一酸化炭素処理製品)の刺身と各種ロールの盛りあわせ。
さすがに、さしみがつながっていることはありません。
量販店の水産物売場
現地資本の量販店
肉類売場の面積と比較して水産物の販売エリアはぐっと狭いです。
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左は、水産物売場のほとんどを サーモン が占めている店です。
このほか、どの店にも持ち帰り寿司店があります。店内で寿司をつくることを売りにしている店もあります。
日系量販店
日系の量販店では、まるで日本にいるような雰囲気です。客が話していることばも日本語が飛び交っています。駐車場の車は日系またはドイツ系がほとんど。日本では 並ぶことのないたくさんのブリの柵が並んでいます。 切り身は日本のようにパックに詰めて販売されています。
日本料理に使う野菜(大根、大葉など)、米がカリフォルニアで生産されています。毎日、カリフォルニア産の野菜が東海岸に空輸されています。カリフォルニア産の短粒米は日系量販店で15ポンド30ドル程度で販売されています(2014年秋、東海岸)。
日系食料品商社販売網
わが国から米国への水産物の典型的な輸出ルートは、加工場→輸出港→海路・空路→輸入港(港または空港)→日系食料品商社(輸入港の倉庫→各地の物流センター→ウェアハウス→顧客)です。
日系食料品商社はwholesalerと呼ばれ、倉庫・保管、製品の分割、営業・販売、顧客までの輸送と日本の卸売業者より広い範囲の業務を担当します。ウェアハウスは倉庫を兼ねた卸売店のことで、ここから顧客の飲食店・小売店等へ商品を配送します。ウェアハウスで消費者に小売りすることはありません。
米国では、日本のように輸送品質の高い宅配便はありません。そこで、業者の体力(保管倉庫、一次加工能力、輸送体制等)によって差があります。冷凍品は週1回程度の配送、鮮魚(日本から、または米国産=ボストンのクロマグロ、カリフォルニアのウニ、タコ、アラスカのサーモン、ヒラメ、オヒョウ、貝、エビ、カニ等)は 土日を除き毎日のようにレストランなどに配送されています。
米国で日本産水産物が販売されている地域、すなわち販売網のある地域は限られています( True World Foods、 西本貿易、 JFC、 共同貿易、 DNI Group)。その地域は、ハワイを含む西海岸、東海岸、五大湖周辺、フロリダ半島等に偏在し内陸部は少ないです。
これらの地域は、
と一致しています。
水産物取引:日米の違い
米国では、「ブリの旬は冬」という認識はありません。また、衛生面で生鮮品(生物)より冷凍品のほうが安全であるという意識があります。その点から、冷凍ブリを通年で提供することに違和感をもたれていません。
産卵期を過ぎた時期の養殖ブリを生鮮品で計画的に出荷(輸出)することも不可能ではありません。
米国 | 日本 | |
皮付き | 皮付きを好む(フィーレ) | 皮なしを好む(ロイン) |
宗教の影響 | 魚食を好む宗派がある(カソリック系、ユダヤ系等) | なし |
魚屋 | ユダヤ人街、スペイン人街にのみ見られる | ほとんどなくなってきた |
人工種苗利用 | 動物愛護の点で消費者から好反応が予想される | 今のところ需要はない |
一酸化炭素処理加工 | 認められている(FDA) ただし、高所得者は不安を感じている |
認められていない(厚生労働省) |
サンプル出荷 | 有料、市価と同じ、サンプルを取り寄せることは取引意欲があることを示す | 無料、取引意欲のない客でも取り寄せる |
流通業界 | 中間業者がほとんど介入しない | 多様な中間業者が介在する |
店頭での陳列 | 氷の上に魚を並べる (パック代が無駄という考え方) |
パックに詰めて並べる |
顧客の注文法 | 自分の好みの量、厚さなどを指定すると店員が要望にあわせて切る | 陳列品から適当なパックを取るだけで注文できない |