ブリ養殖現場の日常作業
給餌(MPの場合)
養殖現場の日常作業で最も時間とコストを要するのが給餌作業です。魚体の大きさと海水温に応じて給餌する回数と量が調整されます。夏場の水温が高くて太る時期に給餌量は増えます。養殖業者は毎日の給餌量と給餌内容を記録して、成長と 餌コストを比較しながら経営上で最適な給餌法を工夫します。
多くの生簀を所有している業者は、毎日別々の生簀に給餌します。
(1)漁港で餌(冷凍の生餌とフィッシュミール他)を準備して、冷凍生餌を粉砕しながら給餌船の船倉に積載します。
(2)粉砕された生餌とフィッシュミール他を給餌船内で混ぜて、MP(モイストペレット)を生成します。
(3)生成したMPを生簀に向けて投じます。水温、風向き、魚の摂餌状況を見ながら給餌します。
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冷凍の生餌を冷凍庫から搬出します。
冷凍庫が不足する場合には、到着した冷凍トラックから直に漁船に移動します。
岸壁で冷凍生餌を粉砕して給餌船に積み込みます。粉砕するために時間を要します。上の写真で左側の冷凍生餌を右下の給餌船の船倉に移動させます。その途中の機械で粉砕します。冷凍生餌の塊は1ヶが約10~15kgです。 このような設備は、①漁協が所有して組合員が共同利用して餌代と使用料を組合員に請求する、②大規模養殖業者が自己のために所有する、③餌供給業者が所有し、餌代と粉砕料を養殖業者に請求する場合があります。
上の写真は船上のMPを製造する機械、左側の生簀にMPを放出します。
養殖漁場に到着し、給餌船のなかで粉砕した生餌とフィッシュミール、オイル(下左の写真)などを混合します。給餌船で生成したMP(モイストペレット、下右の写真)を生簀に放出します。
EPの給餌
配合飼料を給餌する養殖業者もいます。 配合飼料の利用には次のよう利点があります。
- 生餌は漁獲量と冷凍在庫量の変化で大きく価格が変動するが、配合飼料は生餌に比べて価格変動することは少ない。(ただし、近年はペルー沖のカタクチイワシの漁獲制限で変動することがある。餌製造業界は配合飼料の原料転換に努めている。)
- 生餌のように水分が含まれていないので容積が少ない。(生餌重量の3/4が水分と言われる。)
- 生餌は漁獲時期と魚種により成分が異なるが配合飼料はほぼ一定している。
- 配合飼料を常温で保管できる。
- 配合飼料を作業船への積み込み時間が短い。
- 作業船の構造が単純なので投資コストが低減できる。
- 養殖魚の成長にあわせて任意の大きさと成分をもつ配合飼料を選択できる。
漁港で20kg入り配合飼料袋を積み込みます。
漁場で配合飼料を生簀に放出します。購入した配合飼料にビタミン等の添加物を混合する養殖業者もいます。
作業船はMPを生成する船よりも構造が単純です。
日本養魚飼料協会はブリ類をはじめ毎月の魚種別の養魚用配合飼料生産量を集計しています。それによると、ブリ類用配合飼料生産量は1、2月が底で、9月、10月がピークになります。ピーク月は底月と比べて2~3倍の生産量です。2014年7月まで生産量は前年比を下回ってしいましたがその後回復基調です。
自動給餌機(研究開発中)
ほとんどのマダイ養殖業者は自動給餌機を使って配合飼料で飼育しています。ブリ用給餌機の研究が着手されています。 給餌機の実用化でEP補給作業時間の低減、ブリが摂餌したい時間帯に給餌可能などの効用が期待できます。
成長度の確認
月1回程度の割合で、生簀内のブリの体長・体重を測定します。給餌量・水温に応じて成長度を判定して、出荷予定時期から逆算して適切な給餌量を決めます。
餌を捲きながら櫤網で生簀内からサンプルを掬い、麻酔液(使用の許された薬品を薄めた液体)に入れて静かにさせます。その後、体長と重量を測定・記録して生簀に戻します。しばらくすると麻酔状態から覚めます。
選別と分養
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成育に伴って、生簀のなかの養殖魚の魚体にばらつきが生じます。そのため、生簀内にいる養殖魚の大きさを揃えるために生簀から養殖魚を出して大きさ別に異なる生簀に分ける選別作業が行われます。
選別・分養作業には大勢の要員を必要とするので、分養せずに間引きして出荷することで対応している養殖業者もいます。
網洗浄
季節によって養殖網に付着する生物の種類とその成長速度が異なります。冬場は海藻類、夏場は貝類等が多く付着します。 多くの付着物で重量が増えて施設が沈下することもあります。付着物を落とす作業は潜水夫に依頼するときと網洗浄機を利用するの二通りがあります。
潜水夫の人数が限られているので、付着量を確認してから依頼するのではなく、あらかじめ定期的に作業を依頼します。
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網洗浄機を利用するときは、給餌の合間に実施します。10m角生簀で2~3時間を要します。こびりついた貝類を網洗浄機で落とすことは難しく、それらは潜水夫が担当します。潜水夫にとって網洗浄作業は建設的な好ましい仕事ではないようです。
養殖網への付着実験したことがあります。ゴールデンウイークから7月末まで1m四方の実験用の網に35kg以上(空中重量)の付着物(この実験では主にカラスイガイ)が付着しました。このように多量の付着物が着かないように定期的に除去します。
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養殖網の付着物を洗浄するために漁船から網洗浄機を右舷船首部から降ろすところを海岸から撮影しました。
この時(冬場で海藻が付着することが多い)、1台の網洗浄作業は約2時間でした。
網洗浄機で除去しにくいフジツボ等を除去するためには、潜水夫が作業します。
付着物減少を目的に、生簀内でイシダイ、カワハギ等を飼育している養殖業者も
網交換
全国漁業協同組合連合会が審査して認められた安全な付着防汚剤を養殖網に染み込ませて付着物を防止することもあります。ただし、付着防止の効き目のある期間は有限です。そのため、 防汚剤の効果が薄くなってくると養殖網を交換することもあります。
付着防汚剤は化繊網に有効で、金網、亀甲網には使えません。付着防汚剤は塗料の一種なので臭いがあり、染み込ませる作業をどこでも行えるものではありません。また、大きな化繊網に染み込ませる作業は特別な工場でないと実施できません。
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網交換作業を遠くから撮影したものです。
出荷(活締)
早朝、生簀で活締してから船で陸に運びます。岸壁に到着すると、船倉からタモを使って水揚げします。1本ずつ計量しながら白い発泡スチロール箱(重量を記載しながら氷と一緒に詰めてからトラックで消費地市場等に出荷されます。 氷や水が魚体に長時間触れると痛むことがあり、工夫が施されます。1台のトラックに1.5千本から2千本近くのブリが搭載され、消費地の店頭に並ぶのに間に合うように産地を出発します。
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近くの加工場に運ばれるときには、1本ずつではなく、多数のブリを大きな箱(氷水で冷やしながら)に入れて運びます。
牛根漁協のページで漁場での活締作業、漁港での水揚げの作業動画を見ることができます。
出荷準備
出荷が近づくと給餌を止めます。これを餌止めといいます。
出荷(活魚船)
生簀から活魚船で各地の加工場に輸送されます。活魚船が、生簀に接舷し、生簀からタモですくい、計量、計数しながら活魚船の船倉に移します。
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右側の生簀からブリをタモですくい、計量しながら活魚船の船倉に移します。
出荷(活魚車)
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出荷魚を収容した生簀を沖合から岸壁まで曳航します。
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岸壁の生簀から活魚をタモですくい(同時に計量)、計数しながら活魚車に撮します。
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この後、活魚車は水温調節のために氷を水槽に入れ水槽内の溶存酸素を適切に維持しながら消費地に運びます。
産地から消費地まで遠いとき、輸送途中で、水槽の海水を交換することもあります。